“木”ーパーソンインタビュー Vol. 7
やなせ・かんしゅう 柳瀬寛洲 さん

子どもたちが、
ありのままで
あるために。

家に帰ると木の香りがする子どもたち

自然豊かで子育てに適した環境のときがわ町。この地域で育児をしたいがために、町外から移住してくるファミリーも少なくありません。

地域で人気の保育園・はなぞの保育園の園長であり、皎圓寺の住職でもある柳瀬寛洲さんは、職業柄、そんな家族との交流が盛んです。

「いつだったか、引っ越してきた人を中心に座談会を開いたことがあるんです。その時に、なぜときがわ町を選んだのかと聞くと、みんな口を揃えて『人が良い』『他所から来た人にも大らかだ』と話していました。あとは『地域に活気があるように見えた』という意見も耳にしましたね」

そう言って目を細める柳瀬さん。はなぞの保育園は、60年以上前に柳瀬さんの両親が設立。柳瀬さんが本格的に運営に携わるようになったのは約20年前のことで、2018年には新園舎を建設し、心機一転、新たなスタートを切りました。
そこは木材が張り巡らされ、感触に香りに視覚にと、そこにいるだけで気持ちよくなる空間です。

「子どもたちを天然素材に触れさせたいという思いから、木造建築にしたんです。保護者のみなさんからは、『子どもたちが帰ってくると、木の良い香りがするようになった』と好評です」

子どもたちは新しい園舎で、これまで以上に伸び伸び過ごしているようです。

木も食も、ときがわの中で巡回させる

森林資源の豊富なときがわ町では、子どもたちが木に囲まれる環境をつくる「木育て(こそだて)」を推進しています。はなぞの保育園の新園舎も例に漏れず、建物の腰板などにときがわ材を使用。森林資源の循環利用に貢献しています。

また、旧園舎で長く使い続けてきた本棚やロッカーなどは廃棄せず、新園舎に移設。ただ園舎を新しくするだけでなく、これまでの園の記憶を留めるという配慮がなされています。

地域循環型の志向が反映されているのは、園舎だけではありません。給食用の食材は基本的に地場産で安心安全なものを使っています。給食室の前には生産者の写真が貼り出されているため、子どもたちは必然的に関心を抱くそうです。柳瀬さんは、「なるべく地域の方々の顔の見える関係性で物事を進めていくのが理想です」と、温和な表情で語ります。
給食で使う汁椀も、ときがわ町のヒノキなどを使って、町の工房で作られたものを使っているそう。

さらに言うと、園で種から育てた藍を活用し、園児の服を藍染めすることも行っています(冒頭写真:右側から2番目の女の子が来ているTシャツはその一例)。毎年年長さんから年中さんに種を引き継ぎ、この取り組みは30年続いているそうです。

「地域に根差して暮らしている我々は、ときがわ町ならではの風土を大切にしなければいけないと思うのです」

土地を思い、子どもたちを思う柳瀬さんの言葉は、じつに含蓄があります。

自然は子どもたちを“むきだし”にする

柳瀬さんは、園の運営に関しても独自の哲学を持っています。

まず子どもたちの服装に関しては、季節を問わず薄着と裸足が基本。外歩きをする時は草履を推奨していますが、土踏まずの形成や外反母趾の防止に非常に役立っているそうです。そして、子どもたちが自然の中で遊ぶ時間も大切にしています。

「園の近くの森には、私がつくったヒミツの迷路もあるんです(笑)。そういった自然の中で自由に遊ばせていると、子どもたちの本性がむきだしになってきます」

“むきだし”になった子どもたちの感受性はとても豊かで、柳瀬さんは毎日が発見の連続だと言います。

「散歩していて、アブラムシが群れているのを見た子が『虫さんが話し合いをしているよ』と教えてくれたり、水道の蛇口からしずくが垂れているのを見た子が『大変、水道が泣いている!』と驚いたり。違う世界の扉を開けているような視点ですよね。そういう子どもたちの感性こそ、大切にしていきたいと思っています」

「誰もが人生の主人公」と語り、一人ひとりの個を尊重することに重きを置く柳瀬さん。そうして育った子どもたちは、ときがわという風土を、木を、森を、自ずから愛し大切にしていくことでしょう。