“木”ーパーソンインタビュー Vol. 3
たなか・すすむ 田中進 さん

ときがわ材は、
ときがわ町の
魅力あってこそ。

⽊の持ち味を活かす低温乾燥

⽊を製品にするまでにはいくつかの⼯程があり、それぞれの持ち場では、卓越した技術を持つ職⼈が誇りを持って仕事に打ち込んでいます。

ときがわ町で製材業を営み、「協同組合 彩の森とき川」の代表理事も兼ねるときがわ⽊材の⽥中進さんもその⼀⼈。製材とは、素材となる原⽊を加⼯して製品にする作業のこと。流れとしては、初めに粗く⽊取りを⾏い、乾燥させ、最後に注⽂に沿った⼨法に仕上げて出荷します。

重要なのが乾燥のプロセス。その⽅法には、天然乾燥と⼈⼯乾燥の⼆通りがあります。また、⼈⼯乾燥でも温度の設定などにより⾼温乾燥、中温乾燥、低温乾燥にわかれます。

現代では、温度や湿度を⼈⼯的に調整しながら乾燥を⾏う⾼温⼈⼯乾燥が⼀般的ですが、⾹りや⾊ツヤといった本来の⽊の良さをより引き出せるのは昔ながらの天然乾燥。ただ、乾くまでに時間がかかるというデメリットがあります。そこで「協同組合 彩の森とき川」では35℃の低温乾燥装置を購⼊し、⽊材本来の特性を残せる乾燥を⾏うようになりました。

「組合では、天然乾燥に近い低温乾燥と中温乾燥の2種類の乾燥⽅式で対応しています。近年は⽊材本来の良さを求めて天然乾燥の無垢材が欲しいというお客さんも増えていますので、天然乾燥と⼈⼯乾燥(低温・中温)のハイブリッドを提案することもありますよ」

オーダーにふさわしい素材を⾒極め、なるべく⾵合いのある⽅法で仕上げていく。その⼿さばきは、卓越した料理⼈のようです。

⽊への想いがないとこの仕事はできない

⽥中さんは、⽊を⼼から愛してやまない、根っからの⽊材屋さんです。だからこそ、個⼈的な好みもあるのだとか。

「素直な⽊よりひねくれている⽅が好き(笑)。たとえばスギなら、⼀般的に⾚味の強い、ピンクっぽいものを好まれる⽅が多いですけど、⾃分は⿊っぽい⽅が好みですね」

あまりにも⽊が好きなため、「原⽊市場に⾏って気に⼊った⽊があると、使う予定がなくても買っちゃうんだ。仕事と趣味は別にしないとダメなんだけどね」と、破顔。
そして、「そういう⽊への想いを持っていないと、やっていけない仕事でもある」とも。

「今、⽊の魅⼒が少しずつ世の中で認められるようになってきたけど、エンドユーザーがその良し悪しを⾒極めるのは、なかなか難しいです。そこで⼿助けできるのが、我々のような⽴場の⼈間だと思います」

⽊の伝道師たらん⽥中さんは、地元であるときがわ材についてひとしお強い想いを持っています。

「⽊を差別化して売り出すには、⽊の性質だけでなく、その背景が重要。たとえば、『ときがわが好きだからこの町の⽊を使ってみたい』とかね。とにかく町を気に⼊ってもらって、移住した⼈が家を建てる時に、この辺りの⽊を使ってもらえるとうれしいですね。地元で育った⽊は、その⼟地の⾵⼟に⼀番適していますから」

そして渡される次代へのバトン

⽥中さんは、代々林業に携わってきた家に⽣まれ育ち、ご⾃⾝も製材業を営むようになってから30年を超えます。そんなベテランだからこそ、最近、次の世代のことをよく考えると⾔います。

「我々の2代くらい前の⼈たちの⼿によって植えられた⽊が、ここには使いきれないほどあります。当時の国策もあったでしょうが、植林してくれた⼈たちには、⾃分たちの⼦や孫のためになるようにという気持ちが強かったはず。そういう⽊を我々の代で絶やしたくないし、次の世代に引き渡せるようにしたいと思っています」

実は、⽥中さんの娘さんである中倉百合花さんはその思いを汲み、ときがわ⽊材で働いています。現在は乾燥前の製材を主に担当していますが、「いずれ⽗のようにすべての⼯程をできるようになりたいです」と、とても前向きに製材業に取り組んでいます。

百合花さんは庭師の夫とともにこの町で暮らしていますが、⼦育てをするようになり、あらためてときがわの魅⼒に気づかされたといいます。

「たとえば、休みの⽇に娘と散歩をすると、⽴ち⽌まって探検したくなる場所がたくさんあるんです。昔はときがわの⾃然の良さを判っていませんでしたが、今なら⼦育てをするのに最⾼の環境だと胸を張って⾔えますね」

⽗から娘へ受け継がれる技術と町への想い。またひとつ、ときがわ町の輪が回りはじめています。